頸部とは
頸部(首)の構造は複雑で、首を支える筋肉、頭部と骨格に血液を供給する血管、唾液腺などの外分泌腺、甲状腺や副甲状腺といった内分泌腺など、さまざまな組織から構成されています。そのため、発生する腫瘍の種類も多岐にわたります。頸部は、頭頸部領域の病気や、リンパ節炎や唾液腺炎などの感染症、自己免疫疾患に伴う炎症性病変など、様々な組織に関連する病気にかかりやすい部位です。
よくある頸部の症状
頸部の腫脹
頸部の膨張(腫れ)は、炎症性疾患、腫瘍性疾患、嚢胞性疾患など、複数の原因によって引き起こされる可能性があります。炎症性の原因としては、咽頭炎や扁桃炎に伴うリンパ節の腫れ、シェーグレン症候群やIgG4関連疾患などの自己免疫疾患が挙げられます。腫瘍は、一般的に「がん」と呼ばれるもので、がんのリンパ節転移、悪性リンパ腫などによって引き起こされることがあります。嚢胞には、頸部リンパ管腫や側頸部嚢胞などがあります。原因は、腫れの性質、付随する症状、首の超音波検査から推測できます。
頸部の痛み
頸部の痛みは炎症によって起こることが大半です。例えば急性扁桃炎や急性咽頭炎に伴うリンパ節の痛みや腫れ、ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふく風邪)による唾液腺膨張や痛みなどが挙げられます。また、頸部の痛みは亜急性甲状腺炎などの急性炎症によるものや、シェーグレン症候群、IgG4関連疾患といった自己免疫疾患に伴う慢性炎症によっても生じることがあります。
頸部の病気
唾液腺炎(耳下腺炎、顎下腺炎)
左右の耳の下と顎の下には、耳下腺と顎下腺という唾液を作る組織があります。何らかの原因でこれらの腺に炎症が起こると、腫れや痛みなどの症状が現れ、これを唾液腺炎(耳下腺炎・顎下腺炎)といいます。一般的には、片方または両方の唾液腺に腫れ、痛み、発熱が起こります。唾液腺炎の原因は、原因となる病原体の種類によって、細菌性とウイルス性の2つに大別されます。細菌感染による唾液腺炎を化膿性唾液腺炎、ウイルス感染によるものを無菌性唾液腺炎といいます。このうち、ムンプスウイルスによる耳下腺炎を流行性耳下腺炎(おたふく風邪)といいます。子どもに起こる別のタイプの唾液腺炎は、反復性耳下腺炎です。
反復性耳下腺炎や化膿性唾液腺炎が原因の場合は、抗生物質や鎮痛剤を用いて治療します。おたふく風邪などのウイルス感染症の場合は、解熱剤や鎮痛剤が処方されます。症状が治まるまでは安静が必要です。
唾石(だせき)症
唾液は唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)で生成され、導管と呼ばれる管を通って口の中に流出します。唾液腺または唾液管に結石ができる病気を唾石症といい、胆石や尿管結石と似たイメージの病気です。多くの場合、顎の下にある顎下腺や、その導管であるワルトン管に結石が見られます。唾液腺(あごの下)の腫れや痛みなどの症状が現れ、特に食事中に症状が強く現れることがあります。また、細菌感染を起こしやすくなり、患部の痛みや腫れが悪化する可能性もあります。
症状がない場合や軽い場合は、経過観察を行います。また、結石が小さければ自然に口の中に出てくる場合もよくあります。痛みや腫れが強い場合は、抗生物質で炎症を抑えます。しかし、自然に出てこないと思われる場合は、手術による除去を検討する必要があります。その場合は、連携医療機関を紹介いたします。
亜急性甲状腺炎
甲状腺に炎症が起こり、痛みや発熱を伴う病気です。「亜急性」とは、症状が「急性」よりも長く続くことを意味しますが、慢性の病気ではありません。女性の罹患率が男性よりも高く、30代~40代の女性に多く発症するとされています。原因はまだ特定されていません。風邪に似た症状の後に発症することが多く、ウイルスが病気の発症に関与している可能性が考えられています。血液検査、超音波検査などをおこない、患者様の症状と検査結果を総合的に判断して診断を行います。
亜急性甲状腺炎の治療では、運動を避け安静にすることが大切です。軽症の場合は自然に良くなることもありますが、高熱や強い痛み、ホルモン値が高い場合、心拍数が高い場合などは症状に応じて薬物療法を行います。
甲状腺腫瘍
甲状腺にできたしこりが機能異常を引き起こすことはまれであり、悪性のものであっても多くの場合で根治が期待できます。甲状腺の腫れには、バセドウ病や橋本病のように甲状腺全体が腫れる「びまん性甲状腺腫」と、甲状腺の一部が腫れてしこりのようになる「結節性甲状腺腫」があります。どちらも20代~50代の女性に多く発症するとされています。一般的に、甲状腺結節の特徴は、しこり以外の自覚症状を伴わないことが挙げられます。
当院では、まず良性結節と悪性(がん)結節の鑑別診断を中心に行い、良性か悪性かを判断した上で適切な治療を検討していきます。
悪性腫瘍のリンパ節転移
咽頭がん、喉頭がん、舌がんなど口腔や咽頭、喉頭の悪性腫瘍が首のリンパ節に転移することによって、首が腫れることがあります。また、リンパの流れによって、首に肺がんなどの転移が現れることもあります。
リンパ節の腫れが改善しない場合や、腫れが増す傾向にある場合は、さらなる精密検査が必要になる場合があります。その際は、連携の高度医療機関を紹介し、検査を受けていただきます。