潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、クローン病と並び代表的な炎症性腸疾患の一つです。
まだはっきりとした発症原因は明らかになっておらず、国から難病指定されている病気になります。
主な症状は大腸粘膜の炎症やびらん、潰瘍などで、発症すると発熱や腹痛、下痢、血便、貧血などの症状が現れるほか、他の様々な合併症を引き起こすこともあります。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の原因はまだ明らかになっておらず、国から難病指定されています。
しかし、近年の研究によって、遺伝的素因を持った方が食事習慣の乱れなどによって免疫機能に異常を起こすことが発症に関与しているのではないかと考えられています。
近年では食事習慣の欧米化などによって潰瘍性大腸炎の罹患者は増加傾向にあります。平成26年度末の時点で国内の罹患者数は17万人に及び、700人に1人の割合で発症しています。年代別では、男性では20~24歳、女性では25~29歳が最も多いですが、子どもから高齢者に至るまで幅広く発症することが報告されています。
現在では根治が期待できる治療法は確立されていませんが、対症療法によって症状を緩和させることは可能です。そのため、疑わしい症状が現れている場合には、できるだけ早い段階で当院までご相談ください。
潰瘍性大腸炎の診断
潰瘍性大腸炎の診断は、医師による問診ののち、便検査や血液検査、大腸カメラ検査を実施して、他の病気による腸炎でないことが明らかになった時点で確定診断となります。
なお、大腸カメラ検査では、疑わしい病変組織を採取して病理診断をおこない、詳しい状態を確認します。
潰瘍性大腸炎の主な症状
潰瘍性大腸炎の主な症状は下痢や血便、痙攣を伴う腹痛や持続的な腹痛などです。
重症化すると下痢や血便が頻発することで貧血や発熱、体重減少などの症状も伴うようになります。
また、潰瘍性大腸炎は大腸症状以外にも皮膚や関節、目などに様々な合併症を伴うこともあり、これら症状は出現と消失を繰り返す傾向があります。
潰瘍性大腸炎の分類
潰瘍性大腸炎は、炎症が最も広がった範囲に応じて直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型の3種類に分類されます。特に10年以上継続している直腸炎型以外の種類は全て大腸がんへと進行する恐れがあるため、注意が必要です。
大腸は炎症が長期間継続することによって腸粘膜が遺伝子変異を起こしていくため、潰瘍性大腸炎と診断された場合には定期的に胃カメラ検査を実施して常に状態を把握しておく必要があります。
潰瘍性大腸炎の治療方法
潰瘍性大腸炎は原因不明の難病であるため、現在では根治が期待できる治療法は確立されていません。そのため、治療では現れている症状を緩和させるための対症療法が中心となります。
治療薬は、5‐アミノサリチル酸薬(5‐ASA)製剤や副腎皮質ステロイド薬などの内服薬が一般的に使用されています。これらの薬で十分な効果が得られなかった場合には、抗TNFa受容体拮抗薬やJAK阻害薬などの使用を検討します。
ただし、薬物療法では改善が見込めないほど病状が進行している場合や、大腸がんへと進行している可能性が高いと判断された場合には、大腸の全摘出手術が必要になるケースもあります。当院では、手術が必要と判断した場合には連携する高次医療機関をご紹介いたします。
潰瘍性大腸炎の
医療費助成制度について
潰瘍性大腸炎は厚生労働省から難病指定されている病気のため、治療の際には国から治療費の助成を受けることができます。
助成を受けるには、指定医療機関の難病指定医が記入した臨床個人調査票を準備し、最寄りの保健所で申請手続きを行う必要があります。
承認されれば受給者証が交付されます。なお、受給は申請日から受給者証交付までの期間分も遡って認められます。
クローン病
クローン病とは、小腸や大腸粘膜に慢性的な炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の炎症性腸疾患で、厚生労働省から難病指定されている病気になります。近年増加傾向にあり、若年層に多く見られるほか、男女比も2:1の割合で男性が多く発症する特徴があります。
まだはっきりとした原因は明らかになってはいませんが、遺伝的素因を持っている方の免疫機能が食事や腸内細菌に対して過剰反応を起こすためと考えられています。
クローン病の主な症状
クローン病の症状は病変が現れている場所や程度によって個人差がありますが、主な症状は腹痛や下痢などになります。
また、クローン病は瘻孔や狭窄、膿瘍、肛門部病変、虹彩炎、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症など多くの合併症を引き起こす特徴もあります。これらの合併症が先に発見され、その後クローン病と診断されるケースも多く見られます。
クローン病の診断基準
クローン病の検査では、胃カメラ検査やレントゲン検査、CT検査などを行います。
また、胃カメラ検査では疑わしい病変組織を採取して病理検査にかけ、更に詳しい状態を確認します。
これら各種検査結果とクローン病の診断基準から総合的に確定診断を行います。
クローン病の治療方法
クローン病は現時点で原因不明の難病であるため、根治が期待できる決定的な治療法はありません。そのため、治療では薬物療法や栄養療法といった内科治療を行なって症状の緩和を図ります。
ただし、腸閉塞や穿孔、膿瘍といった合併症を起こしている場合には、手術を行うこともあります。
薬物療法では、5‐アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド、免疫調整薬などの薬を使用します。ただし、これらを服用していったん症状が改善しても、再発を防止するために5‐アミノサリチル酸製薬や免疫調整薬は継続的に服用する必要があります。
これら治療を行なっても十分な改善効果が認められない場合には、抗TNFa受容体拮抗薬の使用が検討されることもあります。
栄養療法
食事習慣の乱れはクローン病の症状を悪化させる恐れがあります。そのため、栄養療法によって食事習慣や栄養バランスを整えることは、症状の改善に有効です。
具体的には、経腸栄養として無脂肪の栄養剤や少量のタンパク質、脂肪を含有した態栄養剤などを使用して体内の栄養バランスを整えます。また、食事では過食や過度な飲酒、香辛料などの刺激物の過剰摂取を避けることも重要です。
なお、これら栄養療法によっていったん症状が治まったとしても、元の食事習慣に戻してしまうと再発を招く恐れがあるため、その後も低脂肪・低残差の食事習慣を継続することが大切となります。
その他では、小腸に狭窄などの病変が認められる場合には、点滴治療を適用することもあります。
外科治療
腸内に狭窄や穿孔、膿瘍形成といった合併症が認められる場合には、外科治療によって症状の改善を図ります。
重度の狭窄を起こしている場合には内視鏡的拡張術が適用され、穿孔、膿瘍を起こしている場合には外科手術による治療が適用されます。
また、状態によっては腸管機能を可能な限り維持できる範囲内で、切除手術や狭窄形成術を行うこともあります。
注意事項
クローン病は潰瘍性大腸炎と異なり、腸管壁の深い部分まで炎症範囲が広がっているケースが多い病気です。
クローン病になると多くの合併症を引き起こす原因も、この深層部分で炎症が長期間にわたり繰り返し起きることによるためと考えられています。また、治療後に症状が改善したとしても、見えない部分で病状が進行していたり、自己判断で治療を中止してしまうことで病状が再発する恐れもあります。
そのため、症状の改善には長期間治療を継続することや、改善した後も定期的に検査を受けて常に自身の状態を把握し続けることが重要です。また、前述通り食事習慣の乱れは病状の再発や悪化を招く恐れがあることから、改善後も健康的な食事習慣を継続することが必要です。