肝機能障害とは?
肝機能障害とは、何らかの原因によって肝臓に異常が生じ、肝機能が低下している状態です。検診等の血液検査で肝機能に関する数値の異常が指摘された場合、肝機能障害と診断されます。
肝機能障害の症状
初期症状
肝機能障害を発症しても初期の段階で自覚症状はほとんど現れないため、病状が進行して症状が現れた際に初めて気づくケースも多く見られます。
しかし、急性肝炎の場合は発熱や倦怠感、食欲低下などの症状が現れるようになります。
これらの症状は風邪とも類似しているため、自己判断で放置せずに血液検査を実施して詳しく状態を確認することが大切です。
進行してからの症状
病状が更に進行すると、吐き気や倦怠感、食欲低下、黄疸、皮膚のかゆみ、むくみなどの症状が現れるようになります。
中には腹水や肝性脳症など重篤な症状を引き起こすこともあります。
肝機能障害の原因
肝機能障害の中でも最も多い病気は肝炎になります。日本で最も多い肝炎の原因は、ウイルス感染によるものと報告されています。
その他の主な肝機能障害の原因としては、過度な飲酒や薬物、免疫機能の異常などが挙げられます。
肝機能障害の中でも特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は近年増加傾向にあります。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は日常的な飲酒習慣がないにもかかわらず発症する脂肪肝で、主な原因は過食などの食事習慣の乱れとなります。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が進行すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を引き起こし、更に病状が進行すると肝硬変や肝臓がんを引き起こします。その他では、胆管の炎症や胆管結石、胆管がん、膵臓機能障害などを引き起こすこともあります。
ウイルス性肝炎
肝臓にウイルスが感染することで炎症が起きる病気をウイルス性肝炎といいます。
原因となるウイルスにはA型からE型の5種類が確認されていますが、日本ではほとんどがB型(HBV)とC型(HCV)で、D型は確認されていません。
B型の主な感染ルートは性行為や血液の接触、輸血、注射のほか、母子感染などが挙げられます。
一方、C型は輸血や透析、ピアス、不適切な注射器の使い回しなどで、性行為による感染はほとんどありません。
アルコール性肝障害
(アルコール性脂肪性肝炎)
アルコール性肝障害とは、主に過度な飲酒習慣を長期間継続することで発症する肝機能障害です。
日本アルコール医学生物学研究会によると、過度な飲酒の目安は成人男子の場合で純エタノール60g以上/日(日本酒3合弱、500mlビール1缶3本程度)を日常的に摂取している状態と定義しています。
また、成人女性やアルコール分解酵素を持たない人の場合は、純エタノール40g/日でも過度な飲酒となり、アルコール性肝障害を引き起こす可能性があります。
アルコール性肝障害は進行するとアルコール性肝炎を引き起こし、更に進行すると肝硬変や肝臓がんを引き起こす恐れがあるため、できるだけ早い段階で禁酒・節酒することが重要です。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
(非アルコール性脂肪肝炎)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは、日常的に飲酒習慣がないにもかかわらず発症する脂肪肝で、近年増加傾向にあります。
主な原因は過食や肥満、メタボリックシンドロームなどによる高血圧や脂質異常や腎機能障害などとなります。
その他では、過度なストレスの蓄積や薬の副作用なども挙げられます。
また、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を発症した患者様の1~2割は、その後非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行しているという報告もあります。
従って、症状の改善にはできるだけ早い段階で食事習慣の見直しや運動習慣の取り入れなど、生活習慣全般の改善を行うことが重要です。
薬物性肝障害
薬物性肝障害とは、薬の副作用が原因で肝機能障害を引き起こす状態です。
原因となる主な薬は、解熱鎮痛薬や抗生物質、精神神経薬、抗がん剤など多岐に渡ります。
その他では、一般的に流通している市販薬や漢方薬、サプリメントなどでも薬物性肝障害を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎とは、何らかの原因によって免疫機能が異常を起こし、肝臓に炎症を引き起こす病気です。
原因はまだはっきりとは明らかになっておらず、厚生労働省から難病指定されています。
患者様の8割が女性という特徴があり、初期の段階で自覚症状はほとんどありません。そのため、検診等の血液検査の際に抗体の数値が異常を示し、偶然発見されるケースが多く見られます。
肝機能障害の検査
採血による肝機能評価法
肝機能の検査では、主に血液検査によって肝機能に関する指標を確認します。
肝臓は多少のダメージを受けても自己修復する性質がありますが、長期間に渡って肝臓がダメージを負うと、修復が間に合わずに肝機能障害を引き起こします。
なお、肝機能と肝細胞の両方の状態を確認して総合的に評価を行います。
肝機能を示す主要な指標
肝機能の評価を行う際には、血液検査によってアルブミンやプロトロンビン時間、ビリルビンなどの数値を確認します。
これらは肝臓の合成や解毒、胆汁排泄などの機能状態を表しているため、肝臓の状態を把握する上で役立ちます。
特に肝臓がアンモニアを正常に解毒できていないと、肝性脳症など重篤な症状を引き起こす恐れがあるため、これら指標を定期的に確認することは重要です。
これら数値を総合的に考慮して肝機能を評価し、異常が見られる場合には適切な治療方針を検討します。
肝酵素異常を示す
採血検査による肝機能評価
血液検査によって、肝酵素の数値の上昇を指摘されることがあります。
肝酵素は肝臓に何らかの異常が生じた際に上昇しますが、肝臓には強い自己修復能力があるため、多少の異常が見られてもすぐに肝機能自体に問題が生じるわけではありません。
そのため、肝機能の評価には様々な検査を行って総合的に判断することが大切です。主な肝酵素異常を表す指標は以下になります。
AST(アスパラギン酸アミノ酸転移酵素)
ASTは、肝臓や心臓、筋肉など身体のあらゆる組織に存在する酵素です。
肝臓に特定すると、急性肝炎や慢性肝炎、肝脂肪などの病気を発症すると、ASTの数値が上昇するため、これら肝臓疾患を発見するための一つの指標になります。
ただし、ASTは心疾患や筋肉の障害などでも上昇するため、他の検査値も確認した上で総合的に鑑別する必要があります。
ALT(アラニンアミノ酸転移酵素)
ALTは主に肝臓に存在する酵素で、肝臓が障害を起こすと血液中に放出される性質があります。
そのため、ALTの数値が上昇した場合には、何かしらの肝臓疾患を発症している可能性があります。
ただし、ALTもASTと同様に心疾患や筋肉障害などでも上昇するため、他の検査値も確認した上で総合的に鑑別する必要があります。
一般的にALTとASTは比率も考慮され、この比率を見ることによって肝臓疾患の可能性や種類を特定することが可能となります。
γ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)
γ-GTPは肝臓や胆道系に存在する酵素で、主にアルコール性の肝臓疾患や肝硬変、肝臓がん、胆道系の病気を発症した際に上昇します。
しかし、γ-GTPは肝臓の代謝機能が活発化したり一時的に過度な飲酒をした際などでも上昇するため、γ-GTPの数値のみで肝機能障害と診断することはできません。
そのため、ASTやALTなど他の指標も確認して総合的に評価することが必要です。
ALP(アルカリフォスファターゼ)
ALPは肝臓や胆道、骨などに存在する酵素です。そのため、ASTやALTと同様に肝臓疾患の発症を示す一つの指標になります。
しかし、骨の異常など肝臓以外の病気でも上昇することがあるため、他の指標も確認して総合的に評価する必要があります。
なお、ALPは妊娠や成長期、血液型などによっても変動することがあります。
肝炎ウイルス検査による
肝機能検査
肝炎ウイルス検査とは、特定のウイルスをマーキングすることで肝炎ウイルス感染の有無やウイルスの種類、程度、免疫状態などを確認することができる検査です。
マーキングする肝炎ウイルスはA型からE型まで5種類ありますが、日本でD型は確認されていないため、4種類となります。
また、肝炎ウイルスマーカーは治療の効果を確認する際にも行われます。
包括的な採血検査項目による
肝機能検査
上記以外にも、肝機能の状態を確認するための指標は様々なものがあります。
代表的なものとして、免疫グロブリンやコリンエステラーゼ、抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体などが挙げられ、これら数値を調べることで、肝臓疾患の有無や種類、程度、治療効果の確認などが行えるほか、自己免疫疾患の有無なども確認することができます。
肝臓数値異常時の対処法
肝機能の状態を示す指標の中には、肝機能障害だけでなく他の病気やその日の体調など、別の要因によって上昇するものもあります。
そのため、検診等で基準値以上の数値が出たとしても、直ちに肝臓が深刻なダメージを受けているとは判断できません。
一方で、数値の異常は何かしらの原因によって引き起こされます。原因の中には肝硬変や肝臓がんなど命の危険を伴う重篤なものもあるため、検診等で異常を指摘された場合には、自己判断で放置せずに医療機関で精密検査を実施して、原因を特定しておくことが重要です。
当院では、血液検査以外にも腹部超音波検査やフィブロスキャン検査などの精密検査を実施しています。
肝機能や肝臓異常値に関して何かご不明な点がございましたら、どのような些細なことでも結構ですのでお気軽にご相談ください。