食道について
食道とは、食べたものを胃に送り届けるための器官で、長さは25~30㎝ほどあります。
食道は上部が胸部、下部が腹部に属し、横隔膜によって隔てられています。
なお、食道が横隔膜を通るために、横隔膜に空いている穴を食道裂孔といいます。
食道の主な病気は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流して炎症を起こす逆流性食道炎や、食道がんなどが挙げられます。
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは、胃酸や胃の内容物が逆流を起こすことで、食道に炎症が生じる病気です。
通常、食道は胃からの逆流を防ぐために括約筋が収縮していますが、加齢などが原因でこの筋肉の働きが低下すると、逆流を防げなくなります。食道は強酸性である胃酸から身を守る機能がないため、胃酸や胃の内容物が何度も逆流を繰り返すと、粘膜が炎症を起こし、ただれや潰瘍を形成するようになります。
逆流性食道炎の主な症状は、喉の違和感や呑酸、胸焼け、咳、吐き気などが挙げられます。
主な発症原因は、括約筋の弱体化のほか、近年若年層に多く見られるケースとして食事習慣の乱れによる過剰な胃酸分泌、腹部を締め付ける衣服を着用することによる腹圧の上昇、猫背なども考えられています。
逆流性食道炎は適切な治療や対策を行わないと再発を繰り返す傾向があり、長期間この状態が続くと食道がんへと進行する恐れもあります。そのため、気になる症状が現れている場合には、自己判断で放置せずに医療機関を受診するようにしましょう。
食道カンジダ症
カンジダとは本来皮膚や粘膜上に存在する常在菌で人体には無害な真菌ですが、加齢や病気などが原因で免疫力が低下すると、食道粘膜に感染して炎症を引き起こす食道カンジダ症を発症します。
主な症状は、胸焼けや喉の違和感やつかえ感、食事の際に喉が染みるなどが挙げられます。多くの場合は免疫力が正常に戻れば自然治癒しますが、中には抗真菌薬などの治療が必要なケースもあります。
食道裂孔ヘルニア
食道裂孔とは、食道が胸部と腹部の間を通る際に横隔膜に空いた穴を指します。この食道裂孔から胃の上部が脱出している状態を食道裂孔ヘルニアといいます。
主な原因は加齢などによる食道裂孔の弛緩で、一般的に高齢者に多く見られる傾向があります。
食道裂孔ヘルニアになると、胃酸や胃の内容物が食道方面に逆流を起こしやすくなり、逆流性食道炎のような様々な症状を引き起こすようになります。
食道裂孔ヘルニア自体は人体に悪影響がないため治療の必要はありませんが、慢性的に逆流を起こすようになると食道が炎症して食道がんなど重篤な症状を引き起こす恐れがあり、手術治療を検討することがあります。
当院では、手術が必要な場合、連携する高度医療機関をご紹介します。
食道アカラシア
食道アカラシアとは、食道裂孔ヘルニアとは逆に胃と食道の境目が狭窄を起こすことで、食べたものが胃へと通過しにくくなる病気です。食べたものが胃の手前で停滞するために口側の食道が拡張し、胸のつかえ感や胸痛、胸焼け、嘔吐などの症状を引き起こします。10万に1人が発症するという日本では極めて稀な病気ですが、欧米人が比較的多く発症することから、原因には食事習慣が関与しているのではないかと考えられています。
主な検査は、胃カメラ検査や上部消化管造影検査が適用されます。これら検査によって狭窄を起こしている場所や程度を確認し、他の類似した病気の可能性が排除されれば確定診断となります。
主な治療は、原因として考えられている食事習慣の改善指導を行いつつ、内服薬によって症状の緩和を図ります。しかし、これらの治療で十分な効果が得られなかった場合、高度医療機関において内視鏡による治療が検討されることもあります。
バレット食道
バレット食道とは、正常な状態では扁平上皮によって構成されている食道粘膜が、胃粘膜を構成する円柱上皮に変換されてしまう病気です。
主な原因は逆流性食道炎による食道粘膜の炎症と考えられています。
主な症状は、吐き気や胸焼け、喉の違和感など逆流性食道炎と類似していますが、中には無症状の場合もあります。
バレット食道そのものは特に命の危険を伴う病気ではありませんが、食道がんの発症に関与しているとも考えられているため、定期的に経過観察を行なって常に状態を把握しておくことが大切です。
食道がん
食道粘膜ががん化した状態が食道がんです。
主な原因は、過度な飲酒や喫煙、逆流性食道炎などで、食道粘膜が長期間炎症を起こすと食道がんへと進行します。
食道がんは、初期の段階では自覚症状に乏しいため、気づかないうちに進行しているケースが多いです。しかし、病状が進行すると食べたものが飲み込みにくくなる、胸のつかえ感、胸の違和感、胸がチクチクする、喉がしみるなどの症状が現れるようになります。更に進行すると、咳や血痰、胸痛、背中痛、声のかすれ、体重減少などの症状を引き起こします。また、食道粘膜は薄いため、他の部位へ転移する可能性が高いのも食道がんの特徴です。
そのため、食道がんは早期発見、早期治療が重要となります。食道がんの早期発見には胃カメラ検査が最も有効です。特に食道がんは40歳を超えると発症リスクが上昇するため、40歳以上の方は定期的に胃カメラ検査を実施して自身の状態を把握しておくことが大切です。
マロリーワイス症候群
マロリーワイス症候群とは、激しい嘔吐を繰り返すことで胃と食道の境目の粘膜が裂傷・出血を起こす病気です。
主な原因は激しい嘔吐が頻発に起こることであり、患者様の約半数が過度な飲酒後の嘔吐が原因と報告されています。その他では、乗り物酔いや食中毒、つわりなどによる嘔吐も発症原因として挙げられます。患者様のほとんどが男性であることも特徴です。
多くの場合はしばらくすると自然治癒しますが、幹部からの出血量が多いと吐血や下血などの症状が現れるようになり、中にはショック状態に陥って救急搬送されるケースもあるため、注意が必要です。症状が激しい場合には、緊急内視鏡検査を行い、止血処置を施す必要があります。
食道静脈瘤
食道静脈瘤とは、食道粘膜のすぐ下部に位置する静脈が瘤のように膨れる病気です。
主な原因は、肝硬変など肝臓疾患に罹患した際、肝臓から出ている門脈という血管の圧力が向上することが関与していると考えられています。そのため、原因疾患の病状が進行すると、静脈瘤が破裂して出血を起こすようになります。
食道静脈瘤そのものは無症状ですが、原因疾患が肝硬変の場合には、疲労感や倦怠感、黄疸、胸部の血管が浮き出る、手のひらか赤くなるなど肝硬変の特徴的な症状が現れます。また、静脈瘤が破裂して出血を起こした場合には、吐血や下血などの症状を引き起こします。
主な検査は、胃カメラ検査を基本に、その他CT検査や超音波検査、経皮経肝門脈造影などを実施して状態を確認します。出血を起こしている場合には、高度医療機関などにおいて内視鏡による食道静脈瘤硬化療法や内視鏡的静脈瘤結紮術を行って止血処置を施します。